内部監査のアウトソーシング

1.アウトソーシングのもつ今日的な意味

今日アウトソーシングという言葉が1つの流行語になっています.

  アウトソーシングとは一言でいうなら文字どおり,外部(アウト)の資源(リソース)の活用です.

すべての業務を自前で抱え込み,情報や資源を内部に蓄積する経営スタイルから,

外部の高度な「専門性」「システム」や「ノウハウ」を有効に活用することで,業務の効率化を図ることです.

  米国のアウトソーシング協会によると,従来,アウトソーシングは問題がある企業によって使われるものでしたが,今日では最も成功している

企業にとっての有効かつ効率的な「戦略的ツール」であるとしています.

  ここで面白いのは,アウトソーシングの定義が時とともに変化していることです.

従来は間接経費や人件費削減といった「コスト」面ばかり追求してきましたが,

今日では業務効率やビジネスプロセス,新しい組織構築等の「付加価値追求」にシフトしているのです.

  

2.日本企業の内部監査部門の現状

 日本企業の内部監査部門は欧米,特に米国の企業と比較すると

人員,規模,ノウハウの蓄積,ITの活用のどれをとっても見劣りしているのが現状です.
 

   例えば、内部監査部門の規模では日本企業の場合,数人から数十人のケースがほとんどであるのに対し、

米国企業の場合、十数人から300人程度と幅がありまちまちですが,それは企業の規模の大小,その企業の抱える監査対象項目数,法令

や法律に基づき監査項目や対象が多岐にわたらなければならないケースや,企業戦略として積極的にアウトソーシングを活用している企業と

活用していない企業の差異によります.

 米国においても企業のリストラは避けて通ることはできませんし,内部監査部門の縮小を図っている企業も多数見られます.しかし,逆に内部監査部門をトップ・マネジメントに対する重要な戦略スタッフ部門と捉え,人員増強を図り,内部監査部門の充実を図っている企業があるのも事実です.人員増強という方法ではなく,外部資源を有効に利用するということで,アウトソーシングを活用する企業も多数あります.
 

  一方、日本企業の場合,数人から数十人の少ない人数で監査計画,実施,報告をし,すべての監査対象範囲に目を光らせるのは可能でしょうか.また内部監査部門長もルーチンの仕事以外にプレーイング・マネージャーとして参加しているケースが多く,本来内部監査部門の効率化や部下の教育に時間を割かなければならないのにほとんど時間が割けないのが現状ではないでしょうか.

   今回のJーSOX制度の内部統制の独立的評価対応で,監査対象や範囲が増えた結果,

それまででも忙しい内部監査のスケジュールが,それに拍車をかけるように時間がいくらあっても足りないという状況になった

ケースも多い のではないでしょうか。

 そのような状況を避けるための有効な手段は内部監査のシステム化であり,

内部監査のアウトソーシング(コソーシング含む)です.

 

 3.内部監査の4形態とその利点と欠点

 4つの内部監査(3つのアウトソーシング)形態
 

    下記の図表は内部監査部門の監査実施機能の方法に関して4つに分類した例のそれぞれの長所と短所です.自前の内部監査部門のケース,部分的アウトソーシングの第1タイプ(一部のみ外部に依存)のケース,第2タイプ(大部分,外部に依存)のケース,そして全面的アウトソーシングのケースです.
 

    社内の内部監査人と外部の内部監査人の両方から必要な人材を調達することから,部分的アウトソーシングのことをコーソーシングということもあります

   通常内部監査部門の構成員の人数はベクトルが全面的アウトソーシングに進むほど少なくなります.いちばん構成員が多いはずなのは自前の内部監査部門だけで内部監査を行うケースですが,

    日本企業の現状を見ると,売上の規模も数千億円と大きく,世界規模で事業展開している企業であっても内部監査部門の規模が10人弱,極端な例では秘書を含めて4,5人で実施しているケースもあります.

   その場合,よほど内部牽制が働き,強固な内部統制が組織全体をカバーしており,また,部門長以下構成員すべて心身ともに強靭であり,世界中を飛び回っているなら別ですが,現実には事業投資先としては本来リスクが高かったはずの海外子会社や関連会社に対して,一度も内部監査を実施していないという話をよく耳にします.

    たとえ実施されても,海外子会社の場合,日本の親会社の内部監査部門から内部監査に行っても表面上の内部監査に終始し,現地のビジネス風上,経営環境,経営状況の観点から的確な確証は得られないでいます.この場合にはグローバルなサポート体制が整っている監査法人に部分的なアウトソーシングを委託し,共同で内部監査を実施したほうがはるかに効果的で効率的です.

  

図表 内部監査の4形態とその利点と欠点

 形   態

 利   点

 欠   点

完全な社内化

社内に完全な内部監査機能をもつ.この形態は,内部監査部門長が重要監査事項,部の編成,監査方法を決定し,監査スタッフの教育にあたる

*社内採用により,社内の知識に精通した社員を採用できる
*社外採用により,専門知識を得ることができる

*完成までに長い時間を要する
*教育に大変な初期費用がかかる
*初期導入期にはマネジメントの期待に応えることが困難な可能性がある

コソーシングⅠ

部分的アウトソーシングI
(一部のみ外部に依存)

社内に内部監査機能をもつが、特定の技術分野・監査において外部からの支援を得る

*内部監査部門導入初期では採用し難い専門家を加えることで質を向上させることができる
*必要に応じた」人材調達を付加することで柔軟性と費用効率を向上できる

*時間的制約:「必要に応じた」 人材の調達・教育を見積るた めに重点を置く項目等を定めた内部監査戦略プログラムが必要である
*マネジメントが多くの時間を
費やす必要がある
*強力な内部監査部門長が必要である

コソーシングⅡ

部分的アウトソーシングⅡ
(大部分,外部に依存)

社内に内部監査部門長を置き,必要に応じて外部の人材を活用する

内部監査部門長は全般的な内部監査の責任を負う

*内部監査部門長を通して社内とのつながりを保つ
*柔軟な人材調達により費用効率が高まる
*専門家を活用できる
*遂行にかかる時間を短縮できる
*後に内部監査人を全員または一部,社員で構成する選択肢も残されている

*内部監査部門長がリーダーシ ップを発揮し,監査業務に焦点を当てる必要がある
*内部監査人と外部専門家とが連携して働くことが必要である

全面的アウトソーシング

すべての内部監査機能を完全に
外注する.内部監査機能の全体
的責任者を決め,内部監査計画
を作成し,内部監査提供者との
連携を行う
提供者は,内部監査人を提供す
るとともに,内部監査計画を遂
行する

*費用効率が高い
*マネジメントの時間が最小限で済む

*遂行に要する時間が最も短い 

*柔軟性を維持できる  

*社内各部との連携が弱い
*内部監査に対するマネジメン
トの関与度が低いと,マネジ

メントが内部監査に全体的な
責任を負うことを証明することが困難になる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4.アウトソーシングの戦略的意味

    アウトソーシングを行う理由として,コストの削減をうたうケース,その部門そのものが存在しないためアウトソーシングをせざるを得ないケ

ース,その企業に特定なノウハウの蓄積がないケース等が挙げられます.

ただし,いずれのケースでも単純なケースを除き企業戦略の意思決定に深く関わっていることがほとんどです.内部監査のアウトソーシン

グをする場合には企業戦略そのものと関わっているといっても過言ではないでしょう.

   なぜなら理想的な内部監査とは組織上社長直属の組織であり,他部門からは独立した形で監査をすることが望ましいため,いきおい経

営トップの経営方針と経営戦略の影響を受けるためです.内部監査を活かすも殺すも経営トップの判断に委ねられています.またアウトソー

シングするかしないかというのも経営トップに委ねられています.それは内部監査の中でも経営監査のウエイトが高まることを意味します.


 理想的なアウトソーシングとは何でしょうか.内部監査の場合,理想的なアウトソーシング=戦略的アウトソーシング

です.なぜなら,それは内部監査部門の位置づけに関連しているからであり,また,内部監査部門の成熟度によるからです.

  米国企業は多くの場合,アウトソーシングする例として,海外子会社の往査や,社長特命事項の内部監査が行われた場合等のフォローアップ内部監査で,海外展開している国際的な会計事務所にアウトソーシングをしています.

   海外の場合には言葉の問題やその国のビジネス慣習等に精通している事務所にアウトソーシングしたほうが効率的ですし,実際に本国から海外に行った場合にはその海外渡航費や宿泊費もばかになりません.

   コスト面の削減も期待できます.また,フォローアップ内部監査では前回内部監査を実施した内部監査人とは違う内部監査人が行うことで,内部監査の客観性を確保するのに役立ちます.

 

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